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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和60年(ネ)98号 判決 1986年8月20日

控訴人(附帯被控訴人)

東窯工協業組合

右代表者代表理事

松本久光

右訴訟特別代理人

石畠小一郎

控訴人

石畠小一郎

控訴人

石畠健男

右三名訴訟代理人弁護士

澤田儀一

被控訴人(附帯控訴人)

松本久光

右訴訟代理人弁護士

松波淳一

主文

一  原判決主文第二項を取消す。

二  控訴人(附帯被控訴人)東窯工協業組合は被控訴人(附帯控訴人)に対し、被控訴人(附帯控訴人)が昭和五七年一二月一七日破産により控訴人(附帯被控訴人)東窯工協業組合の代表理事を退任した旨の変更登記手続をせよ。

三  登記手続請求に関する被控訴人(附帯控訴人)の第一ないし第四次請求を棄却する。

四  控訴人らのその余の控訴を棄却する。

五  訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)東窯工協業組合、控訴人石畠小一郎及び同石畠健男の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人(附帯被控訴人)東窯工協業組合(以下「控訴人組合」という)、控訴人石畠小一郎(以下「控訴人小一郎」という)及び同石畠健男(以下「控訴人健男」という)

1  本件控訴として

(一) 原判決を取消す。

(二) 本案前の申立

被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という)の控訴人小一郎及び同健男に対する本件確認の訴えを却下する。

(三) 本案についての申立

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

(四) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  本件附帯控訴に対し(但し、控訴人組合)

(一) 本件附帯控訴を棄却する。

(二) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴に対し

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人らの負担とする。

2  本件附帯控訴として(原審における登記手続請求に関する予備的請求を第三次請求とし、当審において第二次、第四次及び第五次請求を追加)

控訴人組合は被控訴人に対し、二次的に昭和五七年八月二五日付辞任、四次的に昭和五八年一月七日任期満了、五次的に昭和五七年一二月九日破産により被控訴人が控訴人組合の代表理事を退任した旨の変更登記手続をせよ。

第二  当事者の主張

一  被控訴人の請求原因

1  被控訴人は、昭和五六年一月七、八日頃控訴人組合の理事となり、同年七月一六日には控訴人組合の代表理事に選任され、これに基づき被控訴人が控訴人組合の代表理事に就任した旨の登記が経由された。

2  被控訴人は同年九月一五日控訴人組合に対し代表理事辞任の意思を表明した。

3  また、被控訴人は昭和五七年八月二五日に開催された控訴人組合の理事会において再度代表理事辞任の意思表示をした。

4  更に、被控訴人は昭和五八年一月七日頃到達の内容証明郵便で重ねて代表理事辞任の意思表示を控訴人組合の理事であり、事実上の代表者又は代行者である控訴人小一郎に通知した。

5  右辞任が認められないとしても、控訴人組合の理事の任期は二年であるから、遅くとも昭和五八年一月七日には被控訴人の理事の任期は満了し、これに伴い被控訴人は代表理事の地位を失つた。

6  以上が認められないとしても、被控訴人は昭和五七年一一月二四日富山地方裁判所高岡支部において破産宣告を受けたので、これが確定した二週間後の同年一二月九日に被控訴人は代表理事の資格を喪失した。

7  しかるに、控訴人組合並びに同組合の理事である控訴人小一郎及び同健男は、被控訴人が代表理事の地位を失つたことを争い、控訴人組合は役員の変更登記手続をしない。

よつて、被控訴人は、控訴人らに対し被控訴人が控訴人組合の代表理事の地位にないことの確認を、控訴人組合に対し一次的に昭和五六年九月一五日付辞任、二次的に昭和五七年八月二五日付辞任、三次的に昭和五八年一月七日付辞任、四次的に同日任期満了、五次的に昭和五七年一二月九日破産により被控訴人が控訴人組合の代表理事を退任した旨の変更登記手続をそれぞれ求める。

二  控訴人小一郎及び同健男の本案前の主張

1  控訴人小一郎及び同健男は昭和五六年一〇月六日控訴人組合の理事を辞任した。

2  しからずとするも、右控訴人両名は同年一月に控訴人組合の理事に選任されたものであるから、任期二年を経過した昭和五八年一月右理事の地位を喪失した。

3  よつて、被控訴人の右控訴人両名に対する確認の訴えは確認の利益を欠くものであるから却下されるべきである。

三  右本案前の主張に対する被控訴人の認否

1  本案前の主張1の事実は否認する。

2  同2の主張は争う。

四  請求原因に対する控訴人らの認否

1  請求原因1の事実のうち、被控訴人が控訴人組合の理事に就任したのが昭和五六年一月であることは認め、日は不知、その余は認める。

2  同2、3の事実は否認する。

3  同4の事実のうち、控訴人小一郎が事実上の代表者又は代行者であることは否認する。但し、被控訴人の昭和五八年一月七日付辞任の意思表示の効力は争わない。

4  同5につき、昭和五八年一月(日は不詳)被控訴人の理事の任期が満了したことは認める。

5  同7の事実のうち、控訴人小一郎及び同健男が理事であることは否認し、その余は認める。

五  控訴人らの抗弁

1  被控訴人は昭和五六年九月一五日付辞任の意思表示を同年九月下旬頃撤回した。

2(一)  控訴人組合の定款二〇条二項三段は、任期満了又は辞任によつて退任した役員は新たに選挙された役員が就任するまでなお役員の職務を行うとして任務継続義務を定めているところ、控訴人組合は未だ理事を選任していない。

(二)  また、同定款一九条一項は四名以上六名以内の理事定数を定めているが、被控訴人が辞任すればこれが定める理事定数に欠員を生じた状態となり、かつ代表理事不在の状態になる。これに対処するため中小企業団体の組織に関する法律五条の二三第三項は中小企業等協同組合法四二条を準用し、同条が準用する商法二五八条一項、二六一条三項は新たに取締役又は代表取締役が選任されるまで任務継続義務を定めている。

(三)  従つて、新たに理事又は代表理事が選任されるまで被控訴人は理事及び代表理事の職にある。

六  抗弁に対する被控訴人の認否

1  抗弁1の事実は否認する。

2  同2のうち、控訴人組合の定款に控訴人ら主張の各定めがあること、中小企業等協同組合法四二条が控訴人ら主張の商法の規定を準用していることは認めるが、その余は争う。被控訴人の後任者として控訴人小一郎が選任されている。

七  被控訴人の再抗弁

仮に被控訴人の後任者が選任されていないとしても、それは控訴人小一郎が故意に選任手続を放棄していることによるものであり、同控訴人が実権をふるいながら表面上後任を決めない形態を利用することは権利の濫用である。

八  再抗弁に対する控訴人らの認否

争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

一まず、控訴人小一郎及び同健男は、昭和五六年一〇月六日の辞任又は昭和五八年一月任期満了により控訴人組合の理事の地位を喪失したから、控訴人小一郎及び同健男に対する確認の訴えは確認の利益を欠く旨主張する。そして、理事の地位にない個人に対し、自己が当該組合の代表理事にないことの確認を求める訴えの利益は一般に否定されると解されるので、以下この点につき判断するに、右辞任の主張にそう証拠として右控訴人両名の昭和五六年一〇月六日付辞任届(乙第五、第六号証)が存するところ、<証拠>によると、右控訴人両名は昭和五六年一〇月六日以降も控訴人組合の理事として従前どおり控訴人組合の日常の業務の遂行に従事し、同年一二月及び昭和五七年九月に控訴人組合が金融機関等から金員を借り入れるについて交渉にあたつたほか、同年八月二五日開催された控訴人組合の理事会に理事として出席し、同年一一月九日には控訴人組合の理事の肩書を付して、同月一五日に理事控訴人小一郎を理事長代行に選任する件を議題とする理事会開催の通知をしていることが認められ、また、控訴人小一郎は昭和五八年八月四日の原審第四回口頭弁論期日、控訴人健男は昭和五九年一一月一二日の当審第三回口頭弁論期日における各本人尋問においてそれぞれ自ら右時点で控訴人組合の理事の地位にある旨供述しているところであつて、これらによれば前記乙第五、第六号証は採用し難く、他に右控訴人両名の辞任の事実を認めるに足りる証拠はない。また、<証拠>によれば、控訴人組合の定款では理事の定数を四人以上六人以内(一九条)、任期を二年(二〇条一項)と定めているところ、昭和五六年七月当時における控訴人組合の理事は控訴人小一郎、同健男、被控訴人及び西尾光雄の四名であり、以後一度も役員改選手続のとられていないことが認められ、これによれば、現時点で控訴人小一郎及び同健男の理事の任期は満了していることが明らかである。しかしながら、<証拠>によると、控訴人組合の定款二〇条一項三段には、任期満了又は辞任によつて退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまでなお役員の職務を行う旨規定されていることが認められ、被控訴人が代表理事の地位を失つたことについて控訴人らが争つていることは当事者間に争いがないところである。すると、控訴人小一郎及び同健男については、任期満了によつて理事を退任しているといつてもなお理事としての任務継続義務が存しているのであるから、右控訴人両名に対する被控訴人の本件地位不存在確認の訴えは確認の利益があるということができ、同訴えは適法である。

二そこで本案につき判断するに、被控訴人が昭和五六年一月控訴人組合の理事となり、同年七月一六日には控訴人組合の代表理事に選任され、これに基づき代表理事就任の登記が経由されたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、控訴人小一郎は昭和四五年九月設立当初から控訴人組合の理事長(代表理事)の職にあり、他方被控訴人は右設立以来控訴人組合の従業員として専ら販売等の営業を担当し、昭和五六年一月理事となつた後も職務内容に変りはなかつたこと、その後富山県内の瓦業者が経営合理化のため富山県の指導で工業会を結成することになつたが、控訴人組合がこれに参加するについては他の同業者等から控訴人小一郎が控訴人組合の代表理事であることに対する強い反対の意向が出されたため、控訴人小一郎は表向きは代表理事の地位を退き、被控訴人を控訴人組合の名目的な代表理事に就任させることとし、昭和五六年七月二九日被控訴人の了承を得てその旨の登記を経由したこと、しかし、控訴人組合の実質的な権限は依然として控訴人小一郎が掌握していたため経営の実態が把握できず、また代表理事となつたために控訴人組合の借入れについて個人として連帯保証をせざるを得なかつたことから、被控訴人はまもなく名目上とはいえこのまま代表理事の地位に留まることに対し強い不安を抱くようになり、昭和五六年九月七日には糖尿病のため北陸中央病院に入院したこともあつて代表理事辞任の意思を固め、同月一五日父松本光直を介して控訴人小一郎に辞任届(甲第二号証の一)を提出したこと、しかし、控訴人小一郎はその受取りを拒絶したため、被控訴人は同月二二日これを書留郵便に付して控訴人組合に送付し、右郵便は同月二四日控訴人組合に到達したこと、その後辞任届は被控訴人に返戻されたが、被控訴人らが辞任の手続を進めるよう何度も要求したため、控訴人小一郎は同月三〇日付念書(甲第一三号証)をもつて当時被控訴人の妻であつた松本春美に対し被控訴人の代表理事辞任の手続をとることを約束したこと、ところが、控訴人小一郎が一向に右手続を履践しようとしないため、被控訴人らが富山県中小企業課へ働きかけた結果、昭和五七年八月二五日被控訴人の代表理事辞任要請の件等を議題として控訴人組合の理事会が開催され、被控訴人はそこで改めて代表理事辞任の意思を表明したが、理事会としてこれを了承する旨決議するには至らなかつたこと、被控訴人は昭和五六年一〇月二一日まで入院し、その後は通院しながら自宅で療養につとめていたものであるが、昭和五七年二月一八日からは笹川秀哉の営む瓦工事業の人夫として働き、前記辞任届提出後控訴人組合に出勤していないこと、以上の事実が認められる。

<証拠>(右辞任届提出後である昭和五六年九月一六日から同年一〇月三一日までの間の控訴人組合の振替伝票の一部)には承認印欄に「松本」なるサインの存するところであるが、当審における被控訴人本人尋問の結果によれば右サインは被控訴人がしたものとは認め難く、<証拠>によれば、右辞任届提出後昭和五七年九月一六日までの間に控訴人組合が金融機関等から借入れをした際の借用証書や手形等に被控訴人を控訴人組合の代表理事とする記名印が押捺されていることが認められるが、当審における被控訴人本人尋問の結果によると、これらは被控訴人が押捺したものではなく、いずれも控訴人小一郎の子である控訴人健男らがなしたものであつて、被控訴人の意思に基づかないものであることが認められる。また、当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、昭和五七年八月一七日付でなされた被控訴人の代表理事名義による控訴人組合理事会の開催通知(乙第一号証)も控訴人健男が作成・発送したものであつて、被控訴人が招集したものではなく、被控訴人が同月二五日開催の理事会に出席したのは後任者の選任手続を審議してもらうためであること、被控訴人が同年九月に富山県中小企業課へ控訴人組合の経理担当者と同道したり、富山県瓦工業組合での協議に出席したりしたのは、未だ後任者が選任されず、形式上代表理事となつていることから、やむなく同行したものにすぎず、実質的には代表理事としての関与はしていないことが認められる。以上の認定に反する原審における控訴人小一郎、当審における控訴人健男各本人尋問の結果は措信できず、その他前記認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、控訴人組合については中小企業団体の組織に関する法律が適用されるところ、同法五条の二三第三項は協業組合の管理について中小企業等協同組合法四二条を準用し、同条は理事について更に商法二五四条三項の規定を準用している。そして右の商法二五四条三項は「会社と取締役との間の関係は委任に関する規定に従う」と定めているところ、右委任に関する民法六五一条一項は「委任は各当事者に於て何時にても之を解除することを得」ると規定していることから、控訴人組合の理事たる地位はその者の一方的な辞任の意思表示により控訴人組合の承諾を要しないで失われるものと解すべきである。そして、代表理事の辞任についても同様に解すべきであるが、理事の辞任の意思表示は代表理事の定めがある場合には代表理事に対してすることを要すると解されるから、代表理事が辞任する場合にも、他に代表理事がいるときはその代表理事に対し辞任の意思表示をすることを要し、他に代表理事がいないときは理事会を招集して理事会に対して辞任の意思表示をすることを要するものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、控訴人組合には被控訴人の他に代表理事は存在しないため、代表理事を辞任するには理事会を招集して理事会に対して辞任の意思表示をすべきところ、被控訴人の昭和五六年九月一五日付辞任届は理事である控訴人小一郎に提出されたにすぎないから、これによつて未だ辞任の効力が生じたものとはいえないが、昭和五七年八月二五日に開催された理事会で辞任の意思を表明しているから、これによつて初めて辞任の効力が生じたものということができる。

控訴人らは、定款の定め又は中小企業団体の組織に関する法律の準用規定によつて後任者が選任されるまで代表理事の地位にある旨主張するが、辞任によつて代表理事の地位を失うが、右法律の規定によつて後任者が選任されるまでその職務を行うことが義務づけられているに過ぎないと解されるから、右主張は採用することができない。

従つて、代表理事の地位にないことの確認を求める被控訴人の本訴請求は理由がある。

三  次に役員変更登記手続請求について検討する。

1 昭和五六年九月一五日付辞任を理由とする第一次請求について。同日付辞任の意思表示は前記二認定のとおり理事会に対してなされていないから、未だ辞任の効力が生じているとはいえず、従つて同請求は理由がない。

2  昭和五七年八月二五日付辞任を理由とする第二次請求について。同日付辞任の意思表示が有効なものであることは前記認定のとおりである。しかし、前述したように控訴人組合の定款二〇条二項三段は、任期満了又は辞任によつて退任した役員は新たに選挙された役員が就任するまでなお役員の職務を行う旨規定しているところであり、加えて中小企業団体の組織に関する法律五条の二三第三項が準用する中小企業等協同組合法四二条は更に商法二五八条一項、二六一条三項を準用しているため、結局右規定によると、任期満了又は辞任によつて退任した代表理事は新たに選任された代表理事の就職するまでなお代表理事の権利義務を有しているものというべく、このような場合には、中小企業団体の組織に関する法律五条の二三第五項が準用する中小企業等協同組合法八六条一項に定める登記事項の変更を生じないと解するのが相当である(昭和四三年一二月二四日最高裁判所第三小法廷判決、民集二二巻一三号三三三四頁参照)。

この点について被控訴人は、被控訴人の後任者として控訴人小一郎が選任されている旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

また、被控訴人は、控訴人小一郎が後任者を選任しないことが権利の濫用であると主張するが、被控訴人は前述したように代表理事を辞任したとはいえなお代表理事としての権利義務を有しているのであるから、後任者選任のための理事会を招集することも可能であり、<証拠>によると、控訴人小一郎及び同健男が昭和五七年一一月九日被控訴人に対し、同月一五日に控訴人小一郎を理事長代行者に選任する件を議題とする理事会を開催する旨通知し、欠席の場合の委任状の用紙を同封したにもかかわらず被控訴人はこれに出席せず、委任状も送付しなかつたことが認められるから、控訴人小一郎が後任者選任手続をとらなかつたことをもつて権利の濫用ということはできない。

以上によれば第二次請求は理由がない。

3  昭和五八年一月七日付辞任を理由とする第三次請求について。右辞任の意思表示が有効であることは控訴人らも争わないところであるが、後任者の選任がないため登記事項に変更なく、従つて右登記手続請求について理由がないことは、右2で述べたところと同様である。

4  同日任期満了を理由とする第四次請求について。昭和五八年一月に被控訴人の理事の任期が満了したことは当事者間に争いがないところであるが、登記事項に変更がないと解されることは前記2と同様であつて同請求は理由がない。

5  被控訴人は第五次請求として破産宣告確定による代表理事の資格喪失を理由に変更登記手続を請求する。

ところで、会社と取締役との間の関係は民法の委任に関する規定が適用されるため(商法二五四条三項)、取締役が破産したときは当然に取締役たる地位を喪失すると解される。そして、右規定の趣旨にかんがみると、取締役が破産した場合は、破産宣告確定のときに地位喪失の効果が生じると解するのが相当である(昭和一六年九月九日大審院第五民事部判決、法律新聞四七二七号一四頁参照)。また、商法二五八条一項は取締役が任期満了及び辞任によつて退任した場合についてのみ規定するものであつて、その他の事由によつて退任する場合については明文の規定を欠いているが、取締役が破産すると会社との従前の信頼関係は失われるから、任期継続義務を課すのは妥当ではなく、従つてこのような場合には商法二五八条一項を類推適用すべきでないと解すべきである。そして、前述したとおり、中小企業団体の組織に関する法律五条の二三第三項が準用する中小企業等協同組合法四二条は更に商法二五四条三項を準用しているものであるから、控訴人組合の代表理事が破産宣告を受けこれが確定したときは当然に代表理事の地位を喪失し、後任者の選任・就職がなくても役員の登記事項に変更を生じることとなるところ、<証拠>によると、被控訴人は昭和五七年一一月二四日富山地方裁判所高岡支部において破産宣告を受け、同年一二月一七日これが確定したことは明らかである。すると控訴人組合は右退任を理由とする変更登記手続をすべき義務がある。

従つて、登記手続請求に関する被控訴人の第五次請求は理由がある。

四よつて、登記手続請求に関する第一次請求を認容した原判決主文第二項は相当でないからこれを取消し、右請求に関する第一ないし第四次請求を棄却して第五次請求を認容することとし、地位不存在確認請求を認容した原判決主文第一項は相当であるから控訴人らのその余の控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官井上孝一 裁判官紙浦健二 裁判官森高重久)

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